忘却

小説を書いています

新しい朝

Uは台所から取ってきた、マグの取手を、左手に握る。ちなみにこのマグ、三匹のペンギンが共にサアフィンしてる絵が描いてある。愉快ね。チェイサア用で炬燵の上に置いてあった水を、マグの中へ注ぐ。それから、炬燵の横で、横たわってる物体の。顔面のそば、そいつを置いた。Uは指先が長く、ほっそりしてて、綺麗な爪の形をしてるのよ。
炬燵の中、足を崩しながら「やめときな」と、B。
「ここに水、置いとく。それから気分が悪かったら、ちゃんと言いな」
 ここで、左親指の爪を、もう一方の親指の腹で撫でつけ、Bは誰かに声をかける。
「一時間前は冷蔵庫の上で踊ってたのに」
Uは後ろで髪を束ねてたんだけど、両手でヘアゴムをはずす。ヘアゴムをズボンの前方左側のポケットへやると、「生きてます」って、言った。それから、Dさんは炬燵内の約六割のスペイスを占領して、顔を天井に向けていらっしゃった。両手を身体の後ろに置いていまして、置いていたっていうか、うまく身体のバランスを取って、いたのかしら。ヨガで言うところのダンダァサナ(杖のポォズ)に近い。最初からこう言えばよかった。ダンダァサナ(杖のポォズ)から両手をやや後方にずらした格好で、目を閉じているの。それから、目を閉じたまま「もうわかったから。はいはい、始めましょう」とおっしゃりまして、炬燵内の占領地が四割に後退。Oはさっきからずっと、口を半開きにしててね、私、口を半開きにしてる人を見ると、どうしても何かを口の中に突っ込んでやりたくなるのよ。まだやったことないんだけど。そのうちやるわ。それで、テレビのリモコンを右手の親指でいじくりながら、こう、話した。
「馬鹿は、高いところに行きたがる」
Dさんが天井の方を向いたまま、目をお開けになって、「テレビを消して。生き残ったのはこの四人。みんな。杯は持った?」と、Dさんの『どきどき物真似レパアトリイ(自称)』に入っている、巷で有名な、声がすこぶる低い喫茶店のお姉様の声で、残りの三人に呼びかけなさいました(Oは電源ボタンを押す)。Uが両手で杯を持ち、低めの声で「持ちました」って言うと、ダンダァサナ(杖のポォズ)からお帰りなさったお方が、炬燵の上にあったビィル缶を勢いよく、左手で握る。右手の人差し指と親指でプルタブをつまみ、手前に引くと、残りの輩は一斉に杯を持つ。
「前途を祝す」
腕がDさんの方へ、集まっていく。BとUはコップの底に左手を添え、右手で杯を傾けながら、杯の縁を缶の下の方にあてにいった。Oは立て膝になって、両手で杯を包み込むように持ってた。そのまま、杯を持ったBの手の甲に当たる。各々が、杯を見つめながら、自分の口元まで運んだわ。
「先輩、おつまみがもうないです」杯が音を立て炬燵机に置かれると、Uの顔を見ながら『おつまみ』の有無を指摘するB。Uは杯を握りしめてて、Dさんの方を見てる。Dさんは、もうほとんど目が開いていらっしゃらないの。でも、口だけは動かした。
「おつむがよわい?」
「もう少しで夜が明けます」と、U。Oは、ベランダの方を向いたわ。
「これで無事、みんな仕事にいけるってわけでしょ?」と、Dさんがおっしゃると、Uは杯を一口呑み下してから、「日曜日ですしね」って言ってた。四人は炬燵を、コの字型に囲ってて、台所に一番近い方には誰も。座ってないの。そこに座るためには、そのすぐ側で横たわっている物体を、少しよかさないといけないわ。Dさんは、ベランダに一番近いところに座ってて、OとBは壁側。Uはベッドの側面に、寄りかかってる。
「へーぇ。お前。格好つけてんじゃないよ」このDさんの『へーぇ』は驚きや詠嘆なんかではなくって、自分の息の臭さを確認するためのものなの。それと、Dさんはお酒が入ると、唐突な批評や、質問をすることが多いのよ。これはなんでかって、そりゃあ知らないけど。兎に角、どんな会話をしてようが、そんなことは関係ないの。
「僕ですか」お酒が入ってなければ、Dさんほど話をすり替える能力に長けている人って、なかなかいないと思うわ。授業中に、本当に授業に関係ないことしかしない、小学校五年生の男の子がいたとしてね、その子がどんな突飛な、ちょっとHな発言をしちゃったりしても、この人は必ずその言葉を拾って、そこから算数なら算数、国語なら国語で、その日の単元に結びつけていけるの。でもお酒が入ると、会話を成り立たせることには、あまり興味がなくなってしまうのよ。Dさんはこの時、目を半開きにして、ほとんど白目のまま、軽く頷いた。それからBの方を向いたわ。
「現在完了進行形の話ですか?」
口も、半開きになる。Uはその顔を一瞬、目視すると、「プレゼントパァフェクトコンティニュアス」って言った。
「そうだよ、もう。別れた?」この際Oは、焼酎を舐めずり、杯を炬燵の上に置くと、両腕を組んだ。ベッドで横になっている物体とかを見てたわ。
「今は。いや、何にしても…」
「はぁ」Dさんはお酒が入ると、溜息も出やすくなるの。なぜかしら。溜息って言っても、それは時として、言い淀みであったり、相槌でもあったりすると思うんだけど。ここで、UとBの目が合う。しばらくしてからUは「まだ続いてるんですか」って聞いたわ。
「いや」と、B。なんかよくわからないけど、たまたま目が合っちゃう時ってあるのよね。お互い、なんにも言わずに、ちょっと微笑んじゃったりするの。奇妙よね。何のアイコンタクトなのかしら?Uは、その奇妙さを回避するために口を開いたんだわ。
「三年と、四ヶ月くらいだったかな」焼酎の水割り、六対四くらいで割ったやつ(六が水ね)を、Bは呑んでるんだけど。このとき、一口呑み下すまでに、『間』を作っていたら、両腕を組んだOがBに代わり、口を開いてたのよ。
「聞いてないです」と、U。
Oは、両腕を離すと、おつまみが入ってた皿の上のかすを摘んで食べ始めた。Uは赤い、花柄のジャアジを上に着てる。荒地盗人萩、みたいなやつが描かれているの。なんでまた、こんなジャアジを作ったのかしら。きっと作った人は、よほどアイディィアに困っていたか、何か、忘れられない想い出があったのかも、しれないわ。小学生のとあるとき、荒地で鬼ごっこをしててね、ちょっと前から気になってた女の子が、その日は赤めのジャアジを着てたの。で、その子が鬼になったときに、追いかけて来たんだけど、途中でその子は転んじゃった。心配そうな顔して、そいつが近づいてしゃがんだら、女の子がそいつの足をタッチして、『踏んでるよ』って。『なんだよ』って思って見たら、この盗人萩で、女の子は、ズボンをはらう。『あなたが鬼よ』と言い残し、逃げちゃった。みたいなやつ。
「知らなかったです」Uがこう、口にしたとき、Bは炬燵布団の裂けたところ(自分の炬燵布団ではない)を、さらに引き裂こうとしてた。もうほんと、綿があふれ出そう。
「てっきり知ってるかと思ってたな」と、O。Oは足を炬燵から完全に出してる。それで、小刻みに震えてるの。
「ぇえっ」
Dさんはお酒が入ると、唐突な質問や、溜息だけでなく、感嘆の声も増えるの。全く、よくわからないんだけど、自分の好きなタイミングで感嘆の声をあげたがるのよ。正直、本当に。このことに関してのみ、多くの人がDさんの悪癖として懸念を示している。それ以外は本当に敬愛されている人なんだけど。ここではBがDさんに顔を近づけ、Dさんしか聞こえないくらいの声量で、「ちょっと、うるさいですよ」と、告げた。
「なるほど。いろいろと、繋がった気がします」
「ちょっとさ、お前。貧乏揺すりを、やめてほしい」Uが何かを言ったことは、聞こえてたと思うんだけど。そんなことより、Bは他人に注意、指示を出すことに必死なの。いつ、何時でもよ。確かに貧乏揺すりは時として本当に煩わしいのだけど。彼のような人がいないと、うまく成り立たない状況とか、多々あると思うわ。実際に彼のような人に、私は何度か本当に感謝した。こういう人って、無人島で暮らすことになっても、その島にいる鳥とかに注意したり、指示を出しちゃったりするのよね。それがまるで神々から与えられた自分の生涯における使命なんだ、くらいの気の持ちようでね。そうしてる自分のことに、恋しちゃってるんだから。それで、Oは貧乏揺すりをやめたわ。
「なんで別れたんですか」と、U。
「なんでだろうな」Bはここで、天井を見上げたり、引き裂いた炬燵布団の跡を見たりしながら間を作ってた。
「もっと強くなって、俺のことを見返してほしいんだ」
男がこう語ると、Uはしばらく本当に臭そうな顔を浮かべてた。二週間放置してた生ゴミと大量の蛆虫の臭いを嗅いだ時くらい。
それで、「まぁ難しいことなんだよ」って、Oが会話に入ってきたんだけど、この言葉は、誰にとっても、特に意味をなさなかった。こういう、いわゆる取り上げている話題の難しさを、逐一確認しながら会話を進めようとするのって、洒落てる。とでも思っているのかしら。
Uの、「そうですか」は、多分詠嘆の意味合いだった。Bは右手の人差し指を自分のこめかみに向け、「君と僕達の頭は、繋がってないだろ」って言った。この、『僕達』って、何なのかしらね。『僕達』の頭は繋がっているって、ことかな?私には理解できないわ。理解できなくていいんだけど。これが男の子たちの一体感みたいなやつなのかしら。 南無。
「何をおっしゃっているのか、よくわかりません。確実に。あなたじゃなくても幸せになれると思います」
Bの左手が杯を握り、背が壁にもたれ、右の人差し指で再度こめかみを抑えた時、左隣にいるOは前方のベッドの上、寝息をたてる女の子を一瞥。「君の同期はみんな、横たわっているね」と、口にした。一人はこの部屋に住んでる男の子で、さっきUが水を置いた方。もう一人は、女の子で、日を跨ぐ前に寝たわ。Uはこの時、ベッドの枕元にあったティシュウ箱から、左手でティシュウを一枚取り、鼻を擤むついでみたいな感じで、こう言った。
「呼吸してるんで大丈夫です」
顎をあげて、呑んでた杯を空っぽにしてから、Bは吐息を漏らす。「呼吸してても、大丈夫じゃない人もいるんだ」って、口にした。小学生同士の喧嘩に割り込んでくるヤンキィみたいな声で。ちなみにDさんはこの時、完全に目を閉じていらっしゃった。
「例えば、誰ですか?」
Bは新しい杯を作ろうと、床に置かれた一升瓶を右手で掴んだ。でもOが両手を差し出してきたから、それを受け渡すことにしたのね。その受け渡すついで、「例えば、君だよ」って、喋った。Uは表情筋を緩めることなく、鼻を擤んだティシュウを丸める。BとDさんの間にある、黄色いゴミ箱を目掛け、左手でスナップを効かし、シュウト。丸まったティシュウは、絶妙に、気だるく、弧を描いて(半回転し)、ゴミ箱の中へ、すとん。堕ちていった(ナイスシュウト)。それからOは、床に袋ごと落ちてるほとんどカスみたいな氷を左手で二つ取る。杯へ。右手で焼酎の蓋をひねる。外す。そいつを炬燵の上に置くと、臭そうな息。こう、口にした。
「ねぇ、愛を歌おうよ」
ラベルを上に、瓶底に右手を添え、左手で先端部を持ちながら、焼酎を、本当に(私には、適当としか思えないのだけど)、ものすごい速さで入れたわ。ドゥバドゥクッ。本当に一瞬だった。でもちょうど半分くらいになってたから、驚きね。
「俺たちも、居なくなる」
Bがこう言ってから、Oは蓋を閉め、自分の左側に置く。右手の人差し指で、氷をくねらせると、杯をBに渡した。
「水は?」と、男は尋ねる。
「氷を多めに入れた」と、男は答える。
「後輩は大切にしますよ」と、U。Uが目を一寸、閉じ掛けると、Dさんの目が、瞬く。玄関の方を見てた。「なんの話をしてる?」と、おっしゃりました。UはDさんのお顔を拝見することなく、瞼を閉じる。
「好きな、椅子の形について、話していました」
「そうか。そりゃあいい。ねぇ、どんな椅子が好きなの」左手で、虚ろな目をこする、U。
「バっフ」口からこう音声を発しながらUは左手で口を覆った。
「バフ?」
Dさん以外の目が開いてる男性は、揃ってUの方を見たわ。
「すみません。むせてしまって」Dさんは首を横に振り、こう語った。
「いやいや。いいんだよ。そりゃみんな、椅子の形の話となると、興奮してしまうからね」
「お風呂場の中にある椅子です」Dさんは間、髪を容れず、「はぁ」って声をあげた。これは、感嘆の声ね。
「ちょっと僕、今からやるから、どんな感じで座るの」と、O。そのまま、炬燵の横で四つん這いになった。Dさんは「いや、どんな形なのかな、それは」と、おっしゃりまして、こちらもまた、四つん這いになった。
「やめてあげてください」と、B。
Uは炬燵に手を掛け、両足の踵に力を込める。立ち上がるや否や、低めのセンタリングに合わせる要領で、Uはトウキックを繰り出した。
「ありがとう」と、わき腹を抑えるO。
Uのトウはイタチのよう、ぬっと、炬燵の中へ潜り込む。Bがお尻を踵につけ、横目で、Dさんの方を、目視。一寸顔を近づけて、「先輩、起きてください」って言ったの。Dさんは、目をつぶってる。
「今日、朝から何か、あるんですよね」と、U。
Oはここで四つん這いを辞め、こたつの横に座りなおす。体育座りみたいな格好になった。
「あるよ、それは。朝が来たらの話だけど」って、おっしゃった。目は閉じたまま。
すかさず、Bが「朝が来ます」って言ったんだけど。あんまり聞こえてなかったのかもしれないわ。「へぇ」って。それだけ、おっしゃった。Uは、Dさんが四つん這いになったことで、腰があらわになってしまった部分を目視しながら、こう言った。
「何があるんですか」
「ふふふふふ」この時Dさんは『どきどき物真似レパアトリイ』に入っている、喫茶店のすこぶる声の低いお姉様の声で言ってた。Oは、目を細めていて、Dさんの先にあるベランダの方を見やりながら、「明るくなってきたな」みたいなことを話したわ。ここのベランダの方からだと日の出は見れないんだけど。遠くの分厚い雲が、白みがかってきてた。OがUの座ってるところの、ちょうど真上あたりにある、深い緑の、掛け時計を見ながら、「おれもそろそろ出ないといけない」って口にした。それからしばし沈黙。みんな、一度はDさんのあらわになってるパンツとかを見た。
「うみは、何になるの?」と、O。再び、左手で目をこするU。
「偉くはなりたくないですね」
「うん」
「偉くはないものになりたいですね」
Bは自分のズボンのポケットから、タバコのソフトケエスを取り出すと、炬燵の上に置き、こう語りかけた。
「一つ。真剣に、アドバイスしておくけど。君はもう少し、自分がそんなに器用じゃないことを自覚した方がいい」
「先輩は授業に出た方がいいと思います」
「ご名答」
「なんで出ないんですか」
右の人差し指と、親指で、一本。タバコを取り出すと、炬燵の上で、フィルタァを下にし、炬燵机を叩き始めた。
「くだらない授業に九十分出るよりか、質の良い映画を九十分見たほうが心地よい時間が過ごせるだろ。そういうことだよ」
「映画を見てたんですか?」
「でもほら、ちゃんと卒業するから。行く時は行ってたわけだよ」
「なるほど」Oは右手をポケットに突っ込む。立ち上がると、Bの頭上を跨ぎながら「日が出てきた」って言ったわ。よっぽど、日を拝みたかったのね(光合成がしたい年頃なの)。それから、四つん這いになったまま、動かなくなったDさんの頭部を避け、床に、足を下ろしていく(ベランダの方へ)。ドアの鍵を、右の中指であげる。Bは、炬燵に叩きつけてたタバコを持ち、立ち上がった。ベランダには二つ、サンダルがあるの。ひとつは、島ぞうり。もうひとつは、灰色のスリッパみたいなやつ。元は灰色じゃなかったかもしれないわ。とっても、汚れてるから。Uは二人が揃ってベランダに出たところを確認すると、炬燵から足をのっそり出し、膝立ちに。両手でDさんの上着を引っ張った。これで、露わになってたハンケツとか、パンツとか、が、見えなくなった。Bは、ベランダに入るドアの、すぐ側に立つ。左手に持ってたタバコを、口でくわえ、ポケットからマッチ箱を取り出す。左の親指で箱を一寸押し、今度はマッチ棒をもう一方の親指と人差し指で、取り出した。右の手首を外側にくねらし、マッチ棒に、火が灯る。そいつが空中をすぅっと、浮かび上がって、タバコの、先端に触れる。煙を、口の中に溜め込んでいく。もう一度手首を、外側に素早く、くねらす。すると、マッチ棒の火が消えた。
「一本、もらっていいですか」
Oはベランダの奥、非常口って書いてあるとこの横に立ってる。今にも非常口を突き破りそうな顔をしてたわ。遠くの空を眺めながら、右手がYシャツの胸ポケットに、侵入。そこからタバコを一本取り出すと、口元に運び、右手のライタァで火をつける。一息で吸った。この間、左手はずっとポケットに突っ込んでた。
Bは左手でソフトケエスを掴み、そいつで自分の太ももあたりを、二度叩く。煙を吐きながら、身体を部屋の方へ一寸ひねる。左手を伸ばしながら、ソフトケエスを、Uに差し出す。このとき、部屋にはそれぞれ、ベッドと床で横たわる成人男女と、それから四つん這いの方がいらっしゃったわ。Uはタバコを左の小指と人差し指以外の指で一本取った。この際、影絵の『狐さん』みたいな手の形になってた。唇が、フィルタァに触れるとき、少しだけ、Oの右耳の耳たぶあたりを眺めた。Uはベランダにはギリギリ入ってなくて、裸足のまま、サッシに足の指先をのせてる。Bは煙を空に向かって吐き出し、左ポケットにソフトケエスをしまうついで、マッチ箱を取り出して、しゃがんだ。口でタバコをくわえると、UがBの方を向いて、今度は手首をひねらずに、マッチ棒を素早く赤リンにこ擦り付け、火が灯る。Uは左の親指と中指でタバコを掴みながら、火の中へ、入っていく。火元を見ながら、煙を、口の中に含んだ。Oは分厚い雲を眺める。Bがマッチ棒の火を消すと、Uの喉奥を煙が通って、Bはしばらく、Uの裸足の爪を眺めながら。しゃがみこんだままに、煙を吸ってた。それから。立ち上がって、マッチ棒が、灰皿の元へ、ぽとりと落ちる。Uは煙を吐き出しながら、二人の男の間にある分厚い雲を眺めた。Dさんは、四つん這いのまま。
「新しい朝だ」
「付き合わせて悪かった。寝坊せずにすんだよ」と、O。煙を一度吐き出してから、「気をつけな」って、Bが答えた。Uは自分が灯した火から出る、煙の行き先を、目で追ってたの。火の灯りが消えるまでね。